「染司よしおか」五代目当主、吉岡幸雄氏に毎月、日本の色にまつわる様々なお話をしていただくコーナーです。
草樹の緑が日毎に濃く、美しく感じられる頃となった。まだ梅雨の気配には少し間があるようで、陽ざしが強く感じるなかに薫風が吹いて、気分はまことに心地よい。ただ、そのようなここ一週間ほどのよい気候に喜んでばかりはいられない。
先日も洛南伏見の巨椋池の田畑で栽培をお願いしている蓼藍の畑を見にいったら、この五月の中頃におそ霜が降りたためか、藍の苗の生育がよくなかった。半分以上は、もう一度、植えかえをしなければと、いうことであった。植物染屋の私どもにとっては、重要なことで、これからは気温が順調にあがり、雨も適当に降ってくれないと、藍や紅花は生長してくれないのである。
この稿を書いているのは、いつもよりおそく、六月に入って六日をすぎている。京都地方の梅雨入りはいつ頃であろうか。
「青梅雨」(あおつゆ) という言葉がある。草樹や竹林で緑が生長していくなかに、梅雨の雨滴が降りて、より緑が濃く麗しく感じる姿を言い表したものである。
つい先月も、伏見区深草のある旧家に知人にさそわれて訪問した。そのあたりは大亀谷という地名で、私が四歳から十歳まで住んでいた地域である。そのお宅は、周りに新しい住宅が建つなかで、古い佇まいをのこしたまま今も住まっておられる。五十年余り前の子供の頃になれ親しんだ想い出がいくつも浮かんできた。
そのあたりは、平安の時代より、貴族の別荘として知られたところで、少し山の手には、竹林が広がっていて、「竹の葉山」というゆかしい地名がつけられていた、格別なところである。子供の頃にはまだ往古のままのような竹林があって、五月から六月にかけての気候のよい頃は友人たちと走り回った記憶がある。竹の子の収穫が終わって、中に入ってもしかられなかったからでもある。
若竹が日毎に高くなっていて、空を突くようにのびていく。若竹は竹の皮を一枚一枚はがして、青い竹色を見せていく。 若竹がなんともすがすがしい彩りをしていく。そのようななかを、走ったり、歩いたりするわけであるから、子供ながらに心地よさを感じていたのだ。
そのお宅を辞したあと、同行した知人と少し山の方にあがっていった。すると、まだ宅地がおよんでいない、奥のほうには、かつての竹林の一部がのこっていて、昔の大亀谷のなつかしい姿を思い出したのである。
五月から六月にかけては、田の苗も整って恵みの雨をうけて、野山の青緑は美しくなる。まさしく、「青梅雨」というゆかしい季語に出会えるときである。

『日本の色辞典』緑系の色より
竹は日本でも古くから自生し、身近な植物である。
そのためか、青竹色、若竹色、老竹色、煤竹色など、
おりおりの変化がとらえられて色名にもなっている。
伝統色の完璧な色標本と色名解説
「日本の色辞典」吉岡幸雄
青竹色 (あおたけいろ)
明るく濃い緑色。成長した青竹の幹の色。色見本は、まず刈安で黄色に染めてから蓼藍の生葉で染めて、さらに藍甕で藍を重ねて深みを加えた。
(紫紅社刊「日本の色辞典」より)
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