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「染司よしおか」五代目当主・吉岡幸雄氏が選んだ今月の色の過去の記事より、人気のエッセイを紹介しています。最新記事はこちらでどうぞ。

2010年2月
「椿」

東大寺お水取り「椿造り花」
菊池寛賞受賞記念 吉岡幸雄
「日本の色 千年の彩展」「椿造り花」より

寒さのなかでも、美しい彩りを見せてくれる花、それは梅や椿である。

椿は木へんに春と書くが、これは漢字ではなくて、和様、つまり日本人が独自に造りあげた文字だそうである。それは、椿が日本原産の植物であるからである。

寒さにふるえながら近くの山道を歩いていると、つやのある濃い緑の葉に、紅の濃い彩りの椿の花、またあるところには白く気品のある花が咲いているのを観ると、自ずから心がなごんでくる。

日本人には、四季それぞれ思いいれの花があるわけだが、私にとっては椿がなんともいとおしい。それは、私どもの染工房が四十数年前から奈良東大寺のお水取り、修二会の行のあいだ、二月堂におわす十一面観音にささげる、椿の造り花の染色をさせていただいているからである。

東大寺のお水取りは、春をむかえようとする旧暦二月の、重要な儀式で、国家の天下泰平、気候の風雨順次、五穀豊穣、そして万民の幸福を祈るものである。現在は、行は三月一日から十四日まで、東大寺二月堂で行われているが、その間、十一面観音の周りに、私どもが紅花で染めた和紙を、そこに参籠する練行衆自らが椿の花を形どった造り花をしつらえて、それを本当の椿の生木にさして、飾る。まさしく、春を迎えようとするときに、早春の花を供えるわけである。

私どもの工房では紅花の花びらから、真紅の色を染め出して、椿の花にふさわしい彩りとする。毎年この一、二月の間の寒い季節に行うのが、色がさえて美しい。

ときおり、散歩の折に麗しい椿の花を見ると、このように鮮やかな色に染められるようにと、自らをいましめるのである。

染織史家・吉岡幸雄

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