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2024年2月初旬発売
「源氏物語」五十四帖の色
吉岡 更紗 編著

『「源氏物語」五十四帖の色』「はじめに」より

『源氏物語』は、平安時代中期、11世紀はじめに紫式部によって書かれた長編小説である。天皇の皇子として生まれた美しく才能豊かな光源氏の一生を中心に、恋愛模様や宮中における栄華を描き、王朝文化の最盛期であった当時の宮廷貴族の生活を垣間見ることができる。
 五十四帖にわたる物語は、主人公光源氏の誕生「桐壺」から逝去もしくは出家を思わせる本文のない「雲隠」までその生涯を綴り、後の帖は光源氏の次世代が主人公となる。また最後の十帖は、宇治十帖と称され、都の中心から、貴族の別荘地でもあった宇治に舞台をうつす。
 光源氏の生涯を追う恋愛長編小説でありながら、紫式部は宮中の人々や風趣についてきわめて細やかに記述している。各帖の中で印象的な場面があり、それぞれの登場人物を草木花や色、季節に喩えるように際立たせ、宮中の儀式や祭礼、そして季節の移り変わりに合わせて貴族達が何枚も衣裳をかさね、その季節の草木花の彩りを映したかさね色の描写についても事細かに描写している。
 文中には「ときにあひたる」という表現が多く見られるが、これも当時都に暮らす貴族の人々の美意識である。数枚重ねた衣裳の色の組み合わせを、例えば春は梅、桜、柳、山吹、夏は藤、楝、撫子、秋は萩、桔梗、紫苑、女郎花、菊、紅葉、冬は松、雪、氷を思わせるように変え、その季節の風景や草木花に、細やかになぞらえることが教養やセンスの現れであるとした。衣裳だけではなく、歌や文をしたためる手紙や几帳や御簾などの調度も季節に合わせたものに変えるのが習わしであったという。

吉岡幸雄は十数年程の歳月をかけて、この物語に描かれているかさね色や衣裳についてひも解き、五十四帖に記された色彩を再現し続け、紫式部が『紫式部日記』の中で、初めて『源氏物語』について記した 1008年11月1日から千年の節目を迎える 2008年に行われた「源氏物語千年紀」にあわせて完成した。
 日本には、正倉院宝物など様々な染織品が遺されているが、その後の戦乱などの事情もあり、残念ながら平安時代の伝世品は最も少なく、特に衣裳は現存するものはないといっていい。幸い平安時代に編纂された律令の施行細目である『延喜式』が遺されていて、染織に関する記述として第十四巻「縫殿寮 (ぬいどのつかさ)」の「雑染用度 (くさぐさのそめようど)」条に記された三十種類の色名とそれを染めるために必要な植物染料、灰や 酢などの媒染剤などが列記されている。
 材料が記されているのみで具体的な手順は示されていない為、試行錯誤の元再現にあたった。
 また150年ほどの時を経ているものの、12世紀頃から発展した「伴大納言絵巻」や「源氏物語絵巻」などのやまと絵が、当時の人々の衣装や建築様式、調度など当時の生活様式を伝えてくれているのも大きな手掛かりになったという。
 日本の細やかに移ろう自然を映したその色彩を往時の人々がどのように表現し楽しんだかというこの物語を、その当時に使われた材料、そして技法に忠実に、美しい五十四帖の色彩を再現したのである。

「源氏物語」五十四帖の色
令和五年十一月
吉岡更紗

『「源氏物語」五十四帖の色』本の帯より

 色彩を通じて『源氏物語』に生命の息吹を通わせた名著が、十六年を経て今様に染めかえられた。
 父の色に娘の色を加えたかさね色の帳の向こうに、王朝の世が匂い立つ。

甘橘山美術館開館準備室長
橋本麻里

2月カレンダー付き壁紙

『「源氏物語」五十四帖の色」』「若菜下」より、染司よしおかの植物染作品を壁紙にしました。

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