「染司よしおか」五代目当主、吉岡幸雄氏に毎月、日本の色にまつわる様々なお話をしていただくコーナーです。
十月二十二日の夕刻、鞍馬の火祭に行った。由岐神社へお参りをしようと山門をくぐって、高い山のあたりを見回すと、樹々が僅かづつ、色づいているのが見えた。晩秋はもうすぐである。
それから二日後、西本願寺の前を通ったが、銀杏の葉は、それまでの澄んだ緑から、わずかにくすんで、「青朽葉色」を呈していた。
「朽葉色」とは、葉が色づいて朽ちて散っていくさまを云う。枯葉になる、わずかに手前というべきだろうか。日本の秋の野山には、さまざまな朽葉色が見られて、我々の眼を楽しませてくれるのである。さきの銀杏のように、夏の青葉から、わずかにくすんだ黄色をおびてくるのを「青朽葉色」と云う。それがさらに時がたって、散る直前には見事な黄色を呈する。これが「黄朽葉色」。
蔦や楓紅葉も時とともに移ろっていく。青朽葉から黄朽葉、そして、燃えるような赤、これは「赤朽葉色」と表現する。
さらに日本人の感性は、散った後の美しさまで追っていく。
龍田川 紅葉乱れて 流るめり
渡らば錦 中や絶えなむ (古今和歌集)
奈良県の西を流れる龍田川の、晩秋の美しさを詠んだ和歌であるが、散った紅葉が川面に浮かんで、それはまるで絹の華麗な錦のように美しい。もしそれをわたったら、それが断ちきられるようだと、感嘆しているのである。
やがて初雪を見るような寒さがやってくる。そこには、晩秋のような華やかな樹々の彩りはない。
見わたせば 花も紅葉も なかりけり
浦の苫屋の 秋の夕暮れ (新古今和歌集)
この歌は藤原定家が詠んだ一首であるが、見わたしてみると、花はもとより、紅く染まった葉も木の枝から散ってしまった。彩りは何もない。明石の漁人の小屋のある浜は。と、このもとになったのは「源氏物語」の明石の帖で、光源氏が都を離れて流浪の暮らしをしいられている状況を情景を思いうかべて詠まれた一首である。このように「源氏物語」は、のちの時代の人々にも大きな影響を与えているのである。
今月は、こうした日本の秋の、ゆっくりとうつろっていく彩りをおくりました。

朽葉色の羅と今様色 (「源氏物語の色辞典」より)
青朽葉 (あおくちば)
青朽葉とはどのような色か。『西三条装束抄』には、織色とされ、「経青、緯黄。有二黄気一、木賊色也」とあり、つまり経糸 (たていと) の濃い緑に、緯糸 (よこいと) の黄色を打ち込んで、やや黄味のある木賊色 (とくさいろ) のようだとしている。
(紫紅社刊「日本の色辞典」より)
赤朽葉 (あかくちば)
「赤朽葉」とは、まさしく紅葉のもっとも美しいものと考えて、茜にわずかに支子 (くちなし) の黄色を足して、燃えるような紅葉の彩りとし、七宝花紋に織り上げた。
(紫紅社刊「源氏物語の色辞典」童女の衣裳より)
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